top of page

[寄稿記事]営農継続型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の普及と課題

本記事は、千葉エコ・エネルギー株式会社の馬上氏より寄稿いただきました。

営農継続型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の普及と課題

千葉エコ・エネルギー株式会社 代表取締役 馬上 丈司

1.太陽光発電の普及と農業

FIT制度下で太陽光発電が急速に普及する中で、広大な発電事業用地を確保する手段の一つとして農地の転用が活発に行われてきた。2015年5月までに太陽光発電所へと転用された農地の面積は4,000ha以上*1とされており、これは3,300MW*2の太陽光発電所に相当する。農地法上では、甲種・第1種・第2種・第3種とある農地の区分のうち、太陽光発電所の用地として転用が認められるのは第2種及び第3種である。なお、2013年に成立した「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律(農山漁村再生可能エネルギー法)」を利用した場合には第1種農地も転用可能であるが、国内ではほとんど事例がない。

転用された農地の中で、現に耕作されているものや耕作放棄地がどういった割合で含まれているのかは不明であるが、一度発電所として転用された農地が発電事業終了後に再度農地に復されるとは考えにくく、実質的に再生可能エネルギーの普及によって食料生産の基盤である農地が失われていることになる。上述の農山漁村再生可能エネルギー法では、第1種農地のうち特に荒廃して再生利用が困難な農地を再生可能エネルギー発電設備の整備区域に指定することで、その転用を可能としているものの、代わりに地域の農林漁業振興に資する取組が要求される。しかし、まだ同法を活用した取組は始まったばかりであり、中長期的に農林漁業の振興にどう資するかは未知数である。

 

*1 2015年7月2日 日本農業新聞 「太陽光発電で4000ヘクタール超 農地転用買い取り制度影響本紙調べ」 *2 1MWあたり1.2haと仮定

2.ソーラーシェアリングの普及

このような農地を転用する形での太陽光発電事業が広がる一方で、少しずつ普及しつつあるのが営農継続型太陽光発電(ソーラーシェアリング)である。2013年3月末に農林水産省が「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」(24農振第2657号)として出した通達に基づき、農地に支柱を立てることで営農を継続しながら、太陽光発電設備及び風力発電設備を設置する営農型発電が認められるようになった。特に、営農の継続が確保された太陽光発電設備を「ソーラーシェアリング」と呼ぶ。

同通達により、農地の一時転用許可という形で第1種農地などでも太陽光発電設備の設置が可能となり、且つ一定の収穫量や品質の確保といった営農の継続が条件となることで、従来の農地の完全転用による太陽光発電とは異なり、農地自体の保全も図ることが可能となった。一方で、一時転用許可の裁量は都道府県並びに市町村の農業委員会にあるため、ソーラーシェアリングに対する判断は地域によって分かれているほか、発電設備の設置が作物に与える影響を発電事業者側が証明する必要があること、架台の高さが必要(概ね地上高2m以上)とされることからコストが高くなりやすいことなど様々な課題があり、2015年時点での許可件数は400件程度にとどまっている。最も設置が進んでいるのは千葉県とされ、許可件数全体の3割程度*3が集まっていると推定される。

ソーラーシェアリングが与える大きなインパクトの一つは、農業者が発電所を農地に設置して売電収入を得ることで、農業経営の安定化に資することである。1反歩(約1,000㎡)の農地に設置可能な太陽光パネルは45~50kW程度となるが、仮に平成27年度の非住宅用太陽光発電に対するFIT調達価格である27円/kWhで売電するとした場合、年間で150~165万円の売電収入が見込まれる。*4この収入を活用できれば、新規就農の支援や耕作放棄地の解消など多様な取組が可能となる。また、設備の設置コストの低廉化が図れれば、農業施設での自家消費も視野に入る。

図1 ソーラーシェアリングの例

(出所)千葉県匝瑳市飯塚にて筆者撮影

 

*3 千葉県農業委員会へのヒアリングによる。 *4 設備利用率は14%とした。

3.ソーラーシェアリングの構造

ソーラーシェアリングの構造は、「農地に支柱を立てて設置する」という点が定義されているほか、 ・簡易な構造で容易に撤去できる支柱 ・下部の農地における営農の適切な継続が確実で、パネルの角度、間隔等からみて農作物の生育に適した日照量を保つための設計 ・支柱の高さ、間隔等からみて農作業に必要な機械等を効率的に利用して営農するための空間が確保されている といった事項が農水省通達に定められている。

しかし、この定義についても各地の農業委員会で解釈が分かれ、例えば支柱についてはコンクリートの布基礎は認められないが支柱の根巻きは可とされたり、当初認められなかったスクリュー杭の使用が徐々に認められるようになったりと、制度が運用されていく過程で徐々に基準が整理されてきている。ソーラーシェアリングで重要となる日射量については、概ね32~33%前後の遮光率が多くの作物の生育に影響のないボーダーラインとされるが、日陰/半日陰を好むような作物の場合にはより大きな遮光率でも生育に支障はないことから、適正とする基準は個別に判断されることになる。また、本稿の写真では小型の太陽光パネルを使用したソーラーシェアリングを例示しているが、一般的な野立てのメガソーラーの支柱を高くしただけの発電所もみられており、そのような設備の場合には農地景観に与える影響も考慮する必要がある。

太陽光パネルの設置角度も様々であり、野立ての発電所と同様に20~30°の傾斜をつけるものもあれば、屋根のようにフラットに設置するもの、手動あるいは自動で角度を変化させられるものもある。いずれの場合でも、ソーラーシェアリングでは太陽光パネルの設置位置が高いことから風の影響を受けやすく、強風・台風対策を特に考える必要がある。

図2 発電設備の下で栽培される作物

(出所)千葉県市原市にて筆者撮影

発電設備の支柱に用いられる資材も様々であるが、特に初期からの設備には単管とクランプに小型パネルを組み合わせたものが多く見受けられるほか、専用の架台の開発も進められている。発電設備自体をDIYで設置する事例もあり、特に農業者にとってはソーラーシェアリング設備が農業用設備の延長線上にあるものとして捉えられていく可能性が示唆される。

4.ソーラーシェアリングの課題と今後

ソーラーシェアリングの普及の程度は、同時期の非住宅用太陽光発電が30万件を超えていることからすると、先ほどの2015年時点で400件という数字はごく少数であると言える。普及の障害としては、上述した作物への影響に関する資料の提出や、高コストであることのほかに、ソーラーシェアリング自体を認めていない農業委員会も見られること、転用許可に際して農水省通達に加えた基準が設けられている場合があること、資金調達が困難であることなどが挙げられる。勿論、ソーラーシェアリング自体の認知度がまだまだ低いことも考えられるだろう。 特に大きな課題が、資金調達の困難さである。ソーラーシェアリングは3年を期限とする一時転用許可によって設置が認められるため、FITの20年という期間中でも6~7回程度は許可を更新する必要がある。太陽光発電事業では金融機関から10~15年以上の融資期間で資金を調達するが、この期間中に間違いなく一時転用許可を更新し続けられるかを確約することは難しく、営農の継続性を担保することも個人では難しい。また、ソーラーシェアリング設備は農業用設備としては見なされないため、発電事業用の設備として融資を得る必要があり、既に農業用資機材で多くの借入を受けている場合には資金調達が一層困難となる。

このような課題を抱える中で、2015年12月に農林水産省は通達の改正を行い、下記のような事項が追加あるいは補足された。 ・農地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障がないようにすること ・一時転用許可申請の際の営農に関する知見データとして、先行事例を認めること ・農作物の生育状況に関する報告内容を規定したこと ・発電設備の高さは概ね2m以上として機械耕作に支障がないようにすること ・発電設備の設置は農閑期に行うことが望ましいこと ・農業収入が減少するような作物転換が行われないようにすること

ソーラーシェアリングは、あくまでも農地における営農の継続を第一に考えられた仕組みであり、発電設備の設置によって農業に支障を来さないこと、また農業生産に影響を与えないことが重要視される。今回の通達改正では、農用地区域内農地、甲種農地、第1種農地に発電設備を作るための方便として使われないように、これまで明確化されていなかった部分が改めて整理されている。 農地に限らず、太陽光発電の拡大が山林を始めとする自然環境に悪影響を与えているという状況が生まれている中で、既に農地として開墾されている土地を活用し、食料とエネルギーを同時に生み出していく新たな形態としてのソーラーシェアリングが、この後どのような普及の道筋を辿るのか、引き続き注目していきたい。


閲覧数:4回0件のコメント

Comments


bottom of page