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エネルギーと農業の未来をつくる。 千葉県匝瑳市の4.3MWソーラーシェアリング構想 (連載「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」第1回)

千葉県匝瑳(そうさ)市。山間地を切り開いた飯塚開畑地区周辺で、出力4.3MW、耕作面積100,000㎡におよぶソーラーシェアリングファーム構想「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」が動き始めています。

すでに2つ(97kW)の発電所が完工し、発電中。ソーラーパネルの下で育てる大豆の種まき準備も進んでいます。


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耕作自体は、今回のプロジェクトをきっかけとして立ち上げた農業法人が担います。ソーラーシェアリングサイトの農業を担う法人の立ち上げは、日本では初の試みです。

農作物による収入に加え、ソーラーシェアリングの売電収入によって長期的な収入の安定化を図ることができ、農業を継続する支えになる。農業が持続可能になれば、六次産業化の促進や新規就農者の増加につながっていき、農地(地域)の再生に結びついていく。

こうしたビジョンのもと、地元農家を始めとして地域の企業や組織、団体が協働しながら、「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」は着々と進行しています。


2016年4月2日に行われたソーラーシェアリングの見学会

この連載では「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」の全体像を、ソーラーシェアリングサイトや農業法人、携わる人にフォーカスしながら、順次追いかけていきます。

大豆の収量も良好「匝瑳第一発電所/Sun Agri」

「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」第1弾ともいえるソーラーシェアリングサイトが「匝瑳第一発電所/Sun Agri」です。市民エネルギーちば合同会社が事業主体となり、2014年9月から発電を始めています。

市民エネルギーちばは、ソーラーシェアリングの発案者である長島彬さんのアドバイスを受けながら、千葉県内の中心に数カ所のソーラーシェアリングサイトを手がけています。設置工事は市民エネルギーちば合同会社を中心とした有志メンバーの「手弁当」で行われました。

設備容量は建設当初では35.07kW。パネルはアメリソーラー AS5M-18(70W)501枚、パワーコンディショナはオムロン KP59R-J4(5.9kW)×5台です。現在は、隣接する耕作放棄地に22kW分のバネルを増設し、合計57kWの出力となっています。

架台は単菅・クランプ接合。増設分はクランプ接合していた部分に長島さんが開発した部材を導入、1軸自動追尾型システムのスマートターン(後述)を採用しています。基礎はコンクリート根巻方式です。

地面からパネルまでの高さは2.8m。杭間隔は4~5mです。トラクターやコンバインを入れて作業することができます。方向転換の際、支柱に注意を払えば問題はありません。


高さも杭間隔も十分。トラクターやコンバインの作業も問題なし

2014年・2015年はソーラーパネルの下で大豆を栽培しました。パネルがあっても収量は上々(0.6反の作付け面積で73kg、2014年)。2016年も6月の末から7月に大豆の種まきをする予定です。

一般的には、大豆を育てた後、麦を作るという計画が自然なのですが、ソーラーシェアリングの農業委員会への申請時、開始3年間の作物は1種類にしてほしいと要請を受けたため、現在は大豆を育てている形です。(端境期に何を作るかは自由ということになっています。)

また、このソーラーシェアリングサイトは「市民共同発電所」ということでパネルオーナー制度をとっています。市民出資という形で資金を集め、耕作放棄地を農地に再生したのです。

自動追尾型架台システムを搭載「匝瑳飯塚 Sola Share 第1号機」

「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」2番目のサイトが「匝瑳飯塚 Sola Share 第1号機」です。事業主体は千葉市に本社を置く千葉エコ・エネルギー株式会社。「匝瑳市民発電所」を手がけた市民エネルギーちばとも連携しながら、2016年2月より工事を開始、3月31日より売電を開始しました。


「匝瑳飯塚 Sola Share 第1号機」

出力は55.16kW。耕作面積は約1,200㎡。通常の野立てに用いられるモジュールよりも小型の、アメリソーラー社AS-5M12(70W)を788 枚設置しています。また、パワーコンディショナは、SMA社 STP10000TLEE-JP-11(9.9kW)を5 台使用しています。架台は単菅で、接合部分には全て長島さんが開発した部材を使っています。

このサイトの大きな特徴は、1軸の自動追尾型のシステム「スマートターン」を全面に取り入れていることです。東西向きに設置されたパネルが太陽の方角に合わせて、自動で角度を変える仕組みになっています。


「スマートターン」システム

もちろん手動でも動かすことができ、最大45度まで調整が可能。台風など風が強い日はパネルを水平にして抵抗を減らしたり、雪が降る日は角度をつけてパネル上に積雪しないようにしたりすることができます。今後この地区における日照条件を分析しながら、自動追尾システムのプログラムを改良していく予定です。

総工費は約1,600万円。資金は千葉県の金融機関から調達しました。年間予想発電量は60,000kWhで、5~7年かけて初期投資を回収していく予定です。

もともとは休耕地の状態でしたが、2016年から耕作を再開。まずは大豆の生産を予定しており、千葉県の在来種である「小糸在来Ⓡ」を栽培し、味噌づくりやしょうゆづくりを進めていく計画です。

実際の農業を担うのは、匝瑳市の地元の農家、市民エネルギーちば、そして千葉エコ・エネルギーが共同で設立した農業生産法人Three little birds合同会社((スリーリトルバーズ。以下、TLB)です。今後、TLBが主体となって「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」における約100,000㎡の耕作地における農業、および農産品の加工・販売を行っていく予定です。ちなみに、「匝瑳飯塚 Sola Share 第1号機」では、TLBへ売電収入から年間8万円の耕作支援費を支払う計画です。


TLBの皆さん

「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」の見学会を実施

現在2つのソーラーシェアリングサイトが完成した匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクトですが、すでにFITの申請が完了している計画が複数あり、資金調達などのめどが立った場所から建設を進めていく予定です。

プロジェクトの進行に先立ち、地元の関係者の方々や金融機関の方々にプロジェクトの現場を見ていただくため、2016年4月2日に「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」の見学会が開催されました。


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見学会は、アースガーデンの鈴木幸一(南兵衛)さん、市民エネルギーちば、千葉エコ・エネルギー、TLBが主体となって企画し、「匝瑳飯塚 Sola Share 第1号機」の施工を担当した株式会社横浜環境デザイン、今後「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」の発電事業者となる株式会社ECOWも運営に携わりました。


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当日参加された主な団体は、地元農業者や市役所関係者のほか、地元金融機関や施工業者 など。発電事業に携わる幅広い関係者の方々が「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」の現在と今後進んでいく方向に注目されていました。

2つのサイトの見学が終わった後、飯塚區民館にて関係者によるご挨拶やプロジェクト全体の説明、質疑応答が行われました。


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ソーラーシェアリングの創案特許者である長島彬さんも駆けつけられました。長島さんは「農業を営む事業者に定期的な収入をもたらすのがソーラーシェアリング。安定的な収入が入ることで農業の再生に結びつけていくことが最も重要だと考えています。都会で働いていた人たちが耕作放棄地にきて農業を始める。若い新規就農者が増える。そして畑の周りを小さな子どもたちが走り回るような光景を作っていってほしいと考えています」と語りました。


匝瑳市のごはん屋「たけおごはん」のお弁当

プロジェクトの始まり 農地を再生し地域の活性化へ

合計45基・4.3MWものソーラーシェアリングサイトを構想する「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」ですが、そのきっかけは、匝瑳市出身の椿茂雄さんとソーラーシェアリングに取り組んでいた東光弘さんの出会いがありました。「もともと太陽光発電ネットワーク(PVネット)の会員で千葉の地域交流会に参加していたのですが、その時に東さんと出会って。『畑の上で太陽光発電ができる』ことを知り、ぜひやろう!ということで土地を探し始めました。」(椿さん)


見学会時に説明する椿さん

ソーラーシェアリングに適した土地を探す中でたどり着いたのが、椿さん自身の地元でもある匝瑳市飯塚開畑地区でした。飯塚開畑地区は20数年前、山を切り開いてできた農地でしたが、現在は耕作放棄地が目立つようになり、問題となっていました。

「農業だけで生計を立てるのは難しい。それだけに農業経営を支える方法はないか? そう考えたとき、ソーラーシェアリングはうってつけだと思いました。そうして地権者にソーラーシェアリングの意義を説明し、説得して回っていったのです。」(椿さん)

地域で信用されていた椿さんの説得に応じる形で、数多くの地権者が土地を貸与することを決め、100,000㎡の耕作放棄地を活用するプロジェクトにまで発展したのです。そして椿さんは今、市民エネルギーちばの執行社員として、本プロジェクト全般に携わっています。

数多くの人や団体が関わり、着実に進展している「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」。次回はプロジェクト全体の骨格を作った千葉エコ・エネルギーの馬上丈司さんに「匝瑳市ソーラーシェアリングプロジェクト」が目指すビジョンについて伺います。また、農業生産法人TLBにもスポットを当てる予定です。

設置してよかったこと苦労したこと

良かったこと

  1. 実際に設備を導入するにあたっての、許認可から設計まで様々なハードルについて、当事者として取り組んだことで新たな課題などが明らかになり、今後の事業への大きな学びとなった。

  2. 自社設備を持ったことで、地元の農家さん達とのつながりも持つことが出来、農業へと踏み込んでいく足がかりとなった。

苦労したこと

  1. 設置した畑に傾斜があり、北側と南側で1m近い高低差があったことで、工事に際して設計などの調整が繰り返し必要になった。

  2. 地面の浅い場所に粘土層があるため、雨が降ったあとは表土に水が溜まって工事に支障が出た。

  3. 施工業者にソーラーシェアリング施工の経験が少なかったため、細かい部分での調整を繰り返す必要があり、全体の工期が大きく伸びた。


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発電所名匝瑳飯塚 Sola Share1号機所在地千葉県匝瑳市飯塚字三反町3196, 3199所有者千葉エコ・エネルギー株式会社営農者Three Little Birds合同会社発電出力49.5 kWp (AC) / 55.16 kWp (DC)発電量65,000kWh/年 (初年度見込み)電気の使途東京電力への全量売電パネルアメリソーラー社製 70W×788枚インバーターSMA社製 STP10000TLEE-JP-11 9.9kW×5台架台Φ48.6㎜ 溶融亜鉛メッキ単管パイプをスマートブレースで結合し組立 支柱間隔:4.1m/4.9m 高さ:2.5~3.4mモニタリングシステムSMA社製 SUNNY Webconnect光率32%基礎単管組み、根絡み基礎地目畑施工株式会社横浜環境デザイン耕作物大豆(小糸在来® )、麦設置面積約1,166㎡設置費用1,600万円発電開始日2016年3月設置および運営に関する特徴等・下部の農地は、地元若手農家の方を代表として、共同出資で設立した”Three little birds 合同会社”が行う。今後、有機JAS認定を受けられるような農業を目指していく。 ・1軸の自動追尾型のシステム「スマートターン(R)」を採用。東西向きに設置されたパネルが、日々の太陽の方角に合わせて自動で角度が変わる仕組みになっている。もちろん手動でも動かすことができ、最大45度まで調整が可能。台風など風が強い日はパネルを水平にして抵抗を減らしたり、雪が降る日は角度をつけてパネル上に積雪しないようにしたりすることができる。設置後のトラブル、メンテナンス植自動追尾型システムの微調整を繰り返しながら、最適な発電パターンを探っている。


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